先に費用が決まって、成果はあとから分かる。だから決められない。
本を出したいという話は、事務所の中で何度も出る。名刺代わりに1冊あると話が早い。相談の前提が共有できる。紹介もしやすくなる。効果があることは、感覚としては分かっている。実際、同業で本を出した事務所の話を聞くと、相談の入り方が変わったという声が出てくる。だから否定的な意見が出るわけでもない。誰も反対していないのに決まらない、という状態になる。
それでも決まらない。見積もりを取ると金額は出る。それに見合う問い合わせが来るかどうかは、出してみないと分からない。判断に必要な2つのうち、片方だけが先に確定する。この順番だと、慎重な人ほど動けない。踏み切れないのは臆病だからではなく、判断材料がそろっていないからだ。材料がそろわない状態で決めろと言われている構造になっている。見積もりを複数取っても、状況は変わらない。比べられるのは金額と納期だけで、成果の見込みは並んでいない。安いほうを選んでも、それが正しかったかどうかは半年後にしか分からない。
前例がないことも効く。同業の事務所が本を出しているのは知っていても、いくらかけたのか、どれだけ問い合わせが増えたのかは聞けない。相場の感覚が持てないまま、金額の妥当性を判断することになる。公表されている数字はある。出版サービス各社が自社サイトに載せている相場では、文章がメインの書籍で最低100万円程度。
大手出版社の自費出版部門なら1,000冊で100万から200万円。企業出版になると安くても300万円という記述が出てくる。ただしこれらは、いずれも出版サービスを売っている側が出している数字だ。中立の調査ではない。しかも紙の書籍が前提になっているので、電子で出す場合とは条件が違う。
つまり、参照できる相場そのものに偏りがある。高いのか安いのかを判断する物差しが、売り手の側からしか出ていない。その物差しで自分の判断を作ると、金額の妥当性は最後まで確かめられない。
納期の長さも判断を鈍らせる。数か月先に本が出るとして、その時期に何を仕掛けるかを先に決めておく必要がある。決めておいたことが、出るころに状況と合っているとはかぎらない。そのあいだ、事務所の集客に本は寄与しない。相談の場で渡せるものも、以前と同じままだ。
もうひとつ、失敗したときに残るものが大きい。まとまった額を払ったあとで、思ったほど効果がなかったと分かっても、その支出は戻らない。1冊目の結果が悪ければ、2冊目の話は出なくなる。一度失敗すると、次の提案がしにくくなるのも大きい。効果がなかったという記憶が事務所に残り、数年は話題に上らなくなる。1回目の賭け方が、その後の可能性まで決めてしまう。
評価の基準がないことも、実は効いている。何件の問い合わせが増えれば見合うのかを、先に決めていないことが多い。決めていなければ、出したあとにも成果を判定できない。届いたか届かなかったかを感覚で語ることになり、2冊目をどうするかの話も進まない。基準がないまま出すと、成果があっても認識されない。
効果として語られている数字も、出どころに偏りがある。出版サービスを売っている側は、来客数が2倍以上になった、相談件数が3〜4倍になった、受注単価が2倍以上になったという事例を自社サイトに公表している。自社事例として出しているものなので、そのまま自分に当てはまるとは考えないほうがいい。つまり、費用の側にも成果の側にも、中立の数字がない。両方が売り手の資料から来ている状態で、費用対効果を判断しろと言われている。
自分で数字を作る経路も、いまはない。前例がないので、事務所の中に比較できる実績が残っていない。1冊出せば数字が手元にたまるが、その1冊を出す判断ができないから止まっている。判断材料が要るのに、判断材料は動いた後にしか手に入らない。
だから多くの事務所で、本の話は何年も出ては消える。やる価値があることは分かっている。決める順番が悪いせいで前に進まない。先に費用が確定し、成果が後から分かる。この順番を変えられないかぎり、判断は毎回同じところで止まる。
今日できることもひとつ。本を出すとして、何件の問い合わせが増えれば見合うかを1つ決めてみる。その数字がないと、いくら見積もりを取っても判断できない。決めておけば、出したあとの評価もできる。次にどうするかの話が、感覚ではなく数字から始められる。
出版ラクダではどうなるか
出版ラクダは、原稿を入れるだけで目次・本文整形・表紙・挿絵・販売文を生成し、EPUB/Kindle入稿用EPUB/PDFまで書き出す、買い切り型のKindle出版支援Webサービスです。出版の判断が止まるのは、金額が先に確定し成果はあとからしか分からないという順番のためです。出版ラクダは買い切り型(継続課金なし)で、Basicプランなら税込4,980円から1冊を試せます。大きな見積もりを待たずに着手できるので、何件の問い合わせが増えれば見合うかという基準を、先に数字で検証しやすくなります。