道具を1つ入れるのに、いちばん時間を取られるのは説明のほうだ。
金額の交渉より、説明のほうが長くなる。何に使うのか。効果はあるのか。いつまで払い続けるのか。相手が納得するまで、同じ話を何度もすることになる。説明にかかる時間は、金額に比例しない。数万円の道具でも、月額であれば説明は長くなる。額が小さいぶん、かけた時間のほうが割に合わなくなることもある。
このうち、いちばん答えにくいのが3つ目だ。月額の契約だと、終わりが決まっていない。効果が出なかったらやめる、と言うしかないが、では効果とは何かという話に戻る。判断の基準を先に決めておく必要が出てくるが、その基準を作る材料も手元にない。
固定費として計上されることも重い。一度入れると毎月の予算に乗り、翌年度も引き継がれる。増やすときの説明より、減らすときの説明のほうが難しいと分かっているので、最初の判断が慎重になる。翌年度の担当が変わったときに、何のために契約したのかが分からないものが残る。解約もできないまま毎月払い続ける状態は、この経路から生まれる。
複数の道具を検討していると、この負担が積み上がる。本づくりの解説を読むと、道具を役割ごとに分けるやり方が前提になっていることが多い。企画と構成はこのAI。長文の執筆は別のAI。リサーチはまた別。表紙はデザイン系のサービス。表紙を作るツールだけでも、複数が並べて紹介されている。それぞれに月額があると、合計金額に加えて契約の本数も増える。管理する対象が増えること自体が、決裁を通しにくくする理由になる。
小規模な事務所ほど、この影響が大きい。専任の担当がいないので、契約の管理も自分でやることになる。使っていないものが引き落とされ続けている、という状態が起きやすいのも、この規模だ。管理の負担は、時間とともに増えていく。
もうひとつ、成果が出る前の支出であることが説明を難しくする。本を出す前の段階では、売上と結びつけて説明できない。まだ何も生んでいないものに、毎月の予算を割く理由を作るのは骨が折れる。しかも、成果が出るまでの期間も見積もれない。いつまで説明し続ければいいのかが分からない。
比べる相手も、金額の桁がそろっていない。各社が公表している相場では、自費出版で最低100万円程度、企業出版なら安くても300万円という数字が並ぶ。売る側が自社サイトに出している数字なので、割り引いて見る必要はある。ただ、桁が違う話と、数万円の道具の話が、同じ「本を出す費用」として並んでいる。比較の土台がそろっていないので、どれが妥当なのかを判断しにくい。
金額そのものが問題になっている場面は、実は少ない。数万円の支出で止まっているとしたら、多くの場合は額ではなく形のほうが原因になっている。ところが比較表に並ぶのは金額と機能だけで、支払いの形は列として立っていない。だから自分で足すしかない。合わなかったときに何が残るか、という列を。
使わない期間があること自体は、この仕事では普通に起きる。繁忙期に入れば手が止まる。案件が立て込めば、本づくりは後ろへ回る。執筆は、毎月決まった量が発生する仕事ではない。進む月とまったく進まない月が交互に来る。ところが月額の支払いは、その波と関係なく一定で走る。進まなかった月ほど、支出だけが積み上がって見える。
積み上がると、道具を減らす判断を迫られる。減らせば作業が重くなるので、また進まなくなる。進まないから、また減らしたくなる。本が出ない理由が、書く力とは無関係なところで回り始める。しかもこの循環は、事務所の外からは見えない。報告に上がるのは金額だけで、なぜ進まなかったかは残らない。
説明が長くなる理由も、そこにある。一度きりの支出なら、説明は「何に使うのか」で終わる。続く支出だと、「いつまで」と「やめるときはどうするのか」が加わる。質問の数が増えているのであって、道具の価値を疑われているわけではない。その区別がつかないまま説明を重ねると、話が前に進まない。
説明の相手が自分だけ、という場合もある。一人で決められる立場なら、説明の相手は将来の自分になる。半年後に「これは何のために契約したのか」と問われて答えられるかどうか。答えられないものが増えている状態は、規模に関係なく起きる。
今日できることもひとつ。いま事務所で契約している月額のサービスを並べて、本数を数えてみる。その本数が、管理にかかっている負担の大きさだ。中身を思い出せないものが1つでもあれば、増やす前に確かめることがある。
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