コラム

記事をまとめた本は手抜きではなく、編集という仕事である

既存記事をまとめただけの本は手抜きに見えますが、並べ替え・重複整理・前提の補い・文体の統一をやり切れば、それは記事の集まりとは別の、編集という一つの仕事になります。

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書き下ろしていないから本じゃない、ということはない。

手元の記事をまとめて本にしようとすると、途中でためらいが出てくる。すでに公開したものを並べ直しただけのものを、本として出していいのか。お金を取る形にするなら、新しく書いたものであるべきではないか。そう考えて、まとめる作業を止めてしまう。このためらいは、まじめな人ほど強く出る。読者に対して不誠実になりたくない、という気持ちから来ているので、簡単には振り払えない。だから代わりに「ちゃんと書き下ろしてから出そう」と決めて、そのまま何年も着手しない。

書き下ろすと決めてしまうと、必要な時間が一気に増える。手元にあるものを使わない前提なので、ゼロから数万字を書くことになる。忙しい人ほど、その時間は取れない。決意が着手を遠ざける形になっている。最初から完成形を目指すと詰む、という指摘は、実際に出版まで進んだ書き手のあいだから出ている。書き下ろすという決意は、その構えをいちばん大きくする決め方でもある。

けれども、本にするという作業は並べ替えだけではない。順番を設計し、重複を整理し、前提を補い、文体をそろえる。ここまでやると、読者が受け取るものは記事の集まりとは別のものになる。1本ずつ読むのと、通して読むのでは、理解の仕方が変わるからだ。

記事は、読者がその1本だけを読む前提で書かれている。だから毎回、導入から始まり、その回の中で完結する。本はその逆で、前の章を読んでいる前提で先へ進める。この前提の違いを埋める作業が、1冊にまとめるときに必要になる。それは十分に編集の仕事だ。

タイトルの付け方も変わる。記事の題名は日記的で抽象的なものが通用する。本では誰が何をどうするのかを示したほうが見つけてもらいやすい、という指摘がある。中身が同じでも、入口の言葉を作り直す作業が発生する。これも、並べただけでは終わらない部分になる。

読者の側から見ても、価値は変わる。無料で読める記事が散らばっている状態と、順番に並んで通して読める状態。同じ情報でも手に入れやすさが違う。探す手間を引き受けているぶん、本のほうに払う理由が生まれる。既存の記事を本として再構成することに価値がある、という結論は、実際にまとめた書き手からも出ている。

書き下ろしにこだわると質が下がることもある。すでに書いたものは、時間をかけて考えた結果として残っている。締切を決めて一気に書き下ろしたものより、内容が練れていることも多い。新しさと質は、必ずしも同じ方向を向いていない。読者が求めているのも、新しく書かれたことではない。自分の困りごとに合う説明が、順を追って読める形で置いてあることだ。いつ書かれたかは、読むときには意識されない。

とはいえ、そのまま並べただけでは本にならないのも事実だ。ためらいの中身は、たぶんそこにある。並べただけのものを本と呼ぶのは気が引ける、という感覚は正しい。問題は、編集の工程をやり切る手間が大きすぎて、着手できないことのほうだ。書き下ろすかどうかではなく、編集をやり切れるかどうかが本当の分かれ目になっている。

やり切る手順そのものは、公開されている。共通のテーマで記事を3〜5本選び、序章、本論3章、結論という5部構成に割り当てる。そういう方法を書いている人がいる。やっているのは選別と配置で、これは書く作業とは別の仕事だ。型が手に入るのに着手できないなら、止まっているのは知識ではなく作業量のほうになる。

手を付けたあとに待っている作業も、着手をためらわせる。実際にまとめた人の手順を読むと、原記事、下書き、最終原稿と段階ごとにフォルダを分ける話が出てくる。そこに表紙画像、商品説明、EPUBが加わる。編集そのものを終えても、その先に管理の話が控えている。書き下ろしを選んでも、この部分は同じだけ発生する。つまり、流用をやめても軽くならない。

何年も置くほど、条件は悪くなる。内容を覚えていないので、読み返す量だけが積み上がる。当時の前提が変わっているかもしれない、という不安も出てくる。直すべき箇所の数が読めないので、作業量が見積もれない。7割から8割まで進んだところで中断し、時間が経つほど開くのが怖くなった、という話は珍しくない。

ためらいの正体を分けて見たほうがいい。流用が後ろめたいのか。編集をやり切れる気がしないのか。前者なら、やることは考え方を変えるだけで済む。後者なら、時間の確保の話になる。混ざったまま「書き下ろしてから」と決めると、どちらも解決しないまま先送りになる。

今日できることもひとつ。過去の記事を3本選んで、本の第1章として読める順番に並べてみる。並べ替えるだけで読み心地が変わるなら、それが編集の効果だ。変わらないなら、足りないのは順番ではなく、前提を補う文章のほうだと分かる。

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よくある質問

既存記事をまとめただけの本は手抜きになりませんか。
並べ替え・重複整理・前提の補い・文体の統一をやり切れば、記事の集まりとは別のものになるため、手抜きではなく編集という仕事だとされています。
書き下ろしと記事の再構成、どちらを優先すべきですか。
本文では、書き下ろしにこだわると質が下がることもあると述べられています。すでに時間をかけて書かれた記事のほうが練れていることもあります。