コラム

同じ文章でも、記事として置くのと本にするのでは読者が違う

同じ文章でも、記事として公開しておくのと本にするのとでは、届く読者が違います。検索や紹介に頼る記事と違い、本にはストアの一覧やテーマから見つけてもらえる経路があります。

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記事のままでは届かない人に、本にすると届く。

もう公開している文章をまとめても意味がないのではないか、という疑問はもっともだ。同じ内容が無料で読めるなら、わざわざ本にする理由がないように見える。ここで手が止まる人は多い。公開済みのものを売ることに抵抗を感じるのは、読者を大事にしているからでもある。だから理屈で押し切っても気は済まない。届き方が違うという事実を、自分で納得できるかどうかが分かれ目になる。

ただ、届き方を考えると話が変わる。記事は、その記事にたどり着いた人だけが読む。検索で引っかかるか。誰かが紹介するか。もともとその人を知っているか。どれも、読者の側が先に動いている必要がある。

本は、探し方が違う。ストアの一覧を眺めていて、テーマで見つける。著者を知らない人が、内容だけを見て手に取る経路がある。名前で読まれるのではなく、主題で読まれる。まとまっていることも効く。あるテーマについて詳しく知りたい人は、記事を何本も探して読み継ぐより、1冊で通して読めるほうを選ぶ。探す手間を引き受けている状態そのものに、価値がついている。

順番があることも大きい。記事は書いた順に並んでいるので、初めての読者はどこから読めばいいか分からない。本には第1章があり、そこから読めば理解が積み上がるようにできている。入口が用意されているかどうかで、読み始められる人の数が変わる。

言葉づかいも、届く範囲を決めている。記事の題名は日記的で抽象的なものが通用する。本では誰が何をどうするのかを示したほうが見つけてもらいやすい、という指摘がある。同じ内容でも、探している人に届くかどうかはここで変わる。書いたときの題名のまま並べると、探している人の検索語と噛み合わない。

もうひとつ、形になったものは人に渡せる。この話に興味がありそうな人に、記事のURLを何本も送るのは気が引ける。本を1冊すすめるのは自然にできる。読者が別の読者へ渡す経路が生まれる。記事のままだと、この経路がそもそも存在しない。

自分の側にも変化がある。書いたものが1冊にまとまると、自分が何について書いてきたのかが見える。次に何を書くべきかも決めやすくなる。散らばっているうちは、その全体像が自分でも見えていない。記事を何十本書いたと言うより、この本を書いたと言うほうが伝わる場面もある。同じ内容が、別の形で通用する。

だから、まとめる作業は繰り返しではない。同じ文章を、別の届き方をする形に置き直す作業になる。無料で読めるものが残っていても、それが理由で本の価値が消えるわけではない。既存の記事を本として再構成することに価値がある、という結論は、実際にまとめた書き手からも出ている。

それでも止まるとすれば、理由は別のところにある。置き直すには、並べ替え、重複の整理、前提の補い、文体の統一が要る。どれも書く作業とは種類が違い、終わりの判定がしにくい。つまり、ためらっている理由が価値の話に見えていても、実際には作業量の話になっていることがある。

管理する対象も、置き直す過程で増える。実際にまとめた人の手順を読むと、原記事、下書き、最終原稿と段階ごとにフォルダを分ける話が出てくる。そこに表紙画像、商品説明、EPUBが加わる。記事を書いていたころには存在しなかった作業が、本にする段になってまとめて現れる。

終わりの判定がしにくいことも、着手を遅らせる。記事は書き切れば終わる。並べ直しには、これで完成という線がない。一度並べても、翌日見ると別の順番のほうがよく見える。区切りが来ないので、始める前から気が重い。その日の終わりに何が終わったのかを示すものがない作業は、他の予定に押し出されやすい。

過去に書いたものが多い人ほど、その作業量は増える。1本ずつでは埋もれていたものが、まとまると1つの主題として立つ。量があること自体は有利に働く。同時に、並べ直す対象も本数だけ増える。有利さと重さが、同じ場所から来ている。届かないのは書いていないからではなく、置いてある場所と形のせいかもしれない。そこを先に確かめたほうが早い。

今日できることもひとつ。自分の記事を1本選んで、書いた経緯を知らない人が読んで分かるかを確かめてみる。前提の説明が抜けていないか。前の記事を読んでいる前提で書いていないか。分からないなら、そこが本にするときに補う場所だ。届かない理由が、量ではなく形にあることも見えてくる。

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よくある質問

すでに無料で読める記事を本にする意味はありますか。
記事は検索や紹介など読者が先に動く必要がありますが、本はストアの一覧やテーマから見つけてもらえる経路があるため、届く読者が変わるとされています。
記事を本にするとき何を補えばいいですか。
経緯を知らない人が読んで分かるかどうかを確かめ、前提の説明が抜けていないか、前の記事を読んでいる前提になっていないかを見直すことが挙げられています。