本を作る依頼と、本から集客する依頼は、別の相手に出している。
名刺代わりの1冊を作ろうと決めたとき、頭にあるのは本ができるところまでだ。原稿をまとめて、表紙を作って、ストアに並ぶ。そこまでで一区切りだと考える。実際、そこまでで力を使い切る。本を出すこと自体が目的になりやすいのも、この段階の特徴だ。集客のために始めたはずが、途中から完成させることが目標に変わる。出せば何かが起きる気がして、その先を設計しないまま進む。
出したあとに気づく。本があるだけでは、問い合わせは増えない。読んだ人がどこへ連絡すればいいのか、次に何を見ればいいのかが用意されていない。本の中に事務所の名前は書いてある。そこから先の道がない。
そこで改めて、本を使った導線を考え始める。紹介ページを作る。資料請求の窓口を用意する。本の内容に合わせた案内を置く。ところがこれは、本を作った相手とは別の依頼になる。制作会社を探し、また打ち合わせをして、また見積もりを取る。このとき、本の中身を一から説明し直すことになる。どういう読者に向けたものか。どこが売りなのか。次に何をしてほしいのか。作った本人には分かっていることを、言葉にして渡す作業が発生する。
そのころには、本を出した勢いが落ちている。1冊出した達成感で一区切りついてしまい、次の依頼に取りかかるのが半年後になる。そのあいだ、本は並んでいるが何にもつながっていない。
もうひとつ、本の説明文を軽く扱ってしまう問題もある。ストアで最初に読まれるのはこの文章なのに、本文を仕上げた疲れの中で数行だけ入れて済ませる。読まれるかどうかを決める部分が、いちばん手薄になる。書く力と売る力は別のものなので、同じ人が両方を最高の状態でやる前提のほうが無理がある。それでも工程の順番どおりに進めると、疲れ切ったところで売る仕事が回ってくる。
工程が分かれていること自体が原因になっている。本を作る仕事と、本を使う仕事が別の相手に分かれていれば、そのあいだに切れ目ができる。切れ目のところで、勢いも情報も落ちる。費用の面でも損をしている。制作を1社、導線をもう1社に頼めば、それぞれに管理費が乗る。同じ内容を2回説明する時間も、実質的には費用として出ている。
管理する対象も増えていく。実際にまとめた人の手順を読むと、原稿のほかに表紙画像、商品説明、EPUBと、扱うファイルが並んでいる。そこに導線用のページの原稿が加わる。どれが最新かを自分で覚えておくことになる。
効果の話も、順番を間違えると読み違える。出版サービスを売っている側は、来客数が2倍以上になった、相談件数が3〜4倍になった、受注単価が2倍以上になったという事例を自社サイトに公表している。売り手が自社事例として出している数字なので、そのまま自分に当てはまるとは考えないほうがいい。ただ、そこで語られているのは本を出したこと自体ではなく、本から先の導線まで含めた話になっている。本を出せば増える、という読み方をすると、いちばん効く部分を落とすことになる。
見つけてもらう入口の言葉も、後回しになりやすい。事務所で使っている資料の題名は、内輪向けで抽象的なことが多い。探している人に届けるには、誰が何をどうするのかを示したほうがいい、という指摘がある。中身を変えずに入口の言葉だけを書き換える作業が、本文とは別に発生する。これも本を作る依頼の範囲に入っていないことが多く、あとから自分でやることになる。
出したあとに直しにくいことも効いてくる。反応を見て説明文を書き直したくなっても、依頼した相手にもう一度連絡する必要がある。小さな修正に手間がかかると、たいてい先送りされる。1冊出して終わり、という形になるのは、直す経路が用意されていないからでもある。
順番としては逆になっている。誰に何をしてほしいかが先に決まっていれば、本の作り方も変わっていたはずだ。読者に何を伝えて、次に何をしてほしいのか。それを決めてから書けば、本文と導線がそろう。あとから説明文をつける場合、本の中身と案内が噛み合わないことがある。集客のために本を出したはずなのに、集客の設計が最後まで残る。
今日できることもひとつ。本を読んだ人に次にしてほしいことを、1つだけ書き出してみる。相談の予約なのか、資料の請求なのか、事務所のページを見てもらうことなのか。それが決まっていないなら、本より先に決めることがある。決まっていれば、本の書き方もそこから逆算できる。
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